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徳島地方裁判所 昭和45年(わ)56号 判決 1970年9月30日

本籍

徳島市寺島本町西二丁目二番地

住居

同市同町東二丁目一八番地

医師

梶博久

明治四〇年九月八日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官杉本善三郎出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を罰金四〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二万円を

一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となる事実)

被告人は、肩書住居地において産科婦人科梶病院を経営している者であるが、妻安喜子と共謀のうえ、所得税を免れようと企て、

第一、昭和四二年一月一日から同年一二月三一日までの昭和四二年度における所得金額が一九、〇五〇、六一〇円、これに対する所得税額が七、七一七、五〇〇円であるにもかかわらず、自費診療収入を除外するなどの方法により、右所得金額中一一、一五五、一七〇円を秘匿したうえ、昭和四三年三月一五日徳島市徳島税務署において、同署長に対し、所得金額が七、八九五、四四〇円であり、これに対する所得金額が一、七二一、〇〇〇円である旨過少に虚偽記載した同年度の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、前記納付すべき税額との差額である所得税五、九九六、五〇〇円を免れ、

第二、昭和四三年一月一日から同年一二月三一日までの昭和四三年度における所得金額が二一、七〇七、七七七円、これに対する所得税額が九、〇六七、七〇〇円であるにもかかわらず、自費診療収入を除外するなどの方法により、右所得金額中一一、七七七、一五五円を秘匿したうえ、昭和四四年三月一五日前記徳島税務署において、同署長に対し、所得金額が九、九三〇、六二二円であり、これに対する所得税額が二、五七五、三〇〇円である旨過少に虚偽記載した同年度の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、前記納付すべき税額との差額である所得税六、四九二、四〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一、被告人の検察官に対する供述調書二通

一、収税官吏の被告人に対する質問てん末書四通

一、梶安喜子(三通)、鎌田静江、平井佳代子、畑田正(二通)、原田実、武市望仁、岡田密雄、香川俊夫(二通)の検察官に対する各供述調書

一、収税官吏の梶安喜子、梶テイ、梶博(二通)、平井佳代子、畑田正、武市望仁(二通)、久保守、岡田密雄、村川健太郎に対する各質問てん末書

一、尾賀絹子作成の上申書

一、中瀬敏則、小川淳介、前田隆義(二通)、久保守(三通)、中井治郎、村川健太郎、片山義富、柿崎忠勝(二通)、前田啓次、斉藤政雄作成の各証明書

一、収税官吏作成の報告書

一、検察事務官作成の捜査報告書

一、押収にかける病院日誌(昭和四五年押第二九号1、31、33)、管理日誌(同号2、32、34、42)、寝具原簿(同号3)、収入金明細表(同号7)、封入売上伝票(同号8)、封入雑書(同号14)、箱入雑書(同号19)、所得税関係書類(同号22)、得意先別預金カード(同号23、59)、当座勘定元帳(同号24、57)、普通預金元帳(同号26、55)、定期積金原票(同号27、28、58)、カルテ(同号29、36)、株式関係書類(同号30)、入院退院患者名簿(同号35、41)、保険関係証明書(同号37)、納税証明書(同号38)、旅行積立金証明書(同号39)、決算書綴(同号52)、封入り定期預金名寄カード(同号54)、確定申告書等(同号60)

判示第一事実につき

一、堂野美明、大谷英了、泊清、白石益生作成の各上申書

一、押収にかかる入退院患者名簿(昭和四五年押第二九号4)、給与支払台帳(同号10)、経費明細帳(同号13)、箱入領収書(同号16)、所得税関係書類(同号21)、手形貸付元帳(同号25、56)、郵便貯金証明書(同号40)

判示第二事実につき

一、有持貞子ら作成の確認証

一、橋本佳枝、伊賀良一、鈴江美穂子、井形裕子、辰巳富久治作成の各上申書

一、押収にかかる給与支払台帳(昭和四五年押第二九号11)、箱入領収書等(同号15)、箱入請求書(同号17)、経費帳(同号53)

(法律の適用)

被告人の判示各行為は、いずれも所得税法二三八条、一二〇条一項三号、刑法六〇条に該当するところ、被告人が本件各犯行によつて免れた所得税額は、いずれも右法条に定める罰金額の上限五〇〇万円を超える多額にのぼり、このような犯行に出た動機にもとくに酌むべきものはないこと、しかし他方、被告人に改悛の情か顕著で、従来多忙な診察治療に追われていたとはいえ病院の複雑な経理を素人である妻に殆ど任せきりにしていたことを反省し、現在では経理組織を改善するとともに、再犯に出ないことを誓つていること、被告人はこれまで信望ある医師として地域社会に貢献してきたもので、本件の摘発が新聞紙上等で報道されることによりその名誉を失墜し、これにより社会的懲罰を受けていること、なお被告人が税務当局の調査の結果確定された所得額に見合う所得税およびこれを前提とする加算税等をすでに完納していること、その他諸般の事情を考慮して、所定刑中罰金刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内において被告人を罰金四〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 青野平)

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